2011/07/14

OR2011

第6回オープンリポジトリ年次国際会議(Open Repositories 2011)は、プレカンファレンスイベントを含めて、2011年6月6日から11日までの6日間、米国テキサス州オースティンにあるテキサス大学オースティン校、AT&T Conference Centerで行われた。今回の会議のテーマは、“Collaboration and Community: The Social Mechanics of Repository Systems”であり、リポジトリシステムの開発者、マネージャ、ユーザーが融合してソーシャルダイナミクスを生み出し、システムは持続的な成長を続けていくという意味が込められた。

プログラムチェアのTom Cramerによると、250以上の著者から160件の投稿があり、24件のジェネラルトラック論文、4ブロックの24x7(24件)、3件のパネル、36件のポスターが採択された。会議は、3日にわたるメインカンファレンスとともに、2日にわたるDSpace, ePrints, Fedoraのユーザーグループミーティング、2日にわたるワークショップ、チュートリアル、ワーキンググループミーティングで構成された。参加者登録人数は300人を超えた。

メインカンファレンスは中3日間で行われ、初めのオープニングプレナリーは、Apacheソフトウェア財団 (Apache Software Foundation)のPresidentであるJim Jagielskiによる講演であった。Jagielski氏はApache ソフトウェア財団の設立者の一人であり、コミッターを長年務めている。講演では、オープンソースについて、特にApacheソフトウェア財団の組織の構成と、オープンソースコミュニティの在り方についてスピーチされた。今ではオープンソースコミュニティそのものは開発スタイルとして一般に受け入れられるものとなっているが、健康な(Healthy)コミュニティこそが質の高いソフトウェアを生み出していると指摘していることは印象的であった。リポジトリソフトウェアの、特に、DSpaceやFedoraはオープンソースコミュニティによって開発されている典型であり、Apacheの開発スタイルを参考にすることは開発コミュニティそのものを持続していくうえで重要なことであろう。

Opening Plenary: Jim Jagielski, President, Apache Software Foundation

Slide title of the Jagielski’s talk

Audiences for the opening plenary speech

続けて、2つのパラレルトラックに分かれて、ジェネラルセッションが行われた。初日のセッションのテーマは、セマンティックWebとLinked Data、クラウドソリューション、SWORD、識別子とオーソリティであった。2日目のセッションのテーマは、大規模な保存とアクセス、プラットフォームの進化、よりよい学術コミュニケーション、コラボレーションフレームワーク開発、リポジトリサービスへのコミュニティ参画、データ共有と再利用、ソーシャルネットワーク、国の視点とアプローチ、であった。また、今回から24x7という24枚のスライドで7分間発表するという形式のセッションが新設された。従来のポスターセッションとジェネラルセッションの中間に位置するセッションである。これも、ジェネラルセッションと混ざって2つのパラレルトラックに分かれて行われた。テーマは、福袋(Grab Bag)-今までとは全く違うもの、コミュニティ、ツール、であった。

ジェネラルセッションの発表の中で、筆者に関係の深い著者識別子関係の3件の発表に触れる。1件目は、ANDS(Australian National Data Service)の支援を受けて実施された、オーストラリアのサウザン・クイーンズラインド大学と、ニューキャッスル大学、スウィンバーン工科大学と発表者Peter Sefton、Duncan Dickinsonらソフトウェア開発者の共同による、オーソリティコントロールサービスMintである。彼らはもともとデータのリポジトリを持っており、セマンティックWebを作り上げるにはそれらのデータに対してそれぞれリンクをしなければならないという認識の下、たとえば著者のIDや統制された語彙をリンク先としてサービスするシステムを考案している。Mintは、語彙と名前をスプレッドシートや、SKOS、スクリプトを介して簡単にインポートし、また、内容をJSONで返却するルックアップサービスを備える。2件目は、MITのRichard RodgersによるORCIDの紹介である。ORCIDのシステムは、学術関連の著者IDの公開レジストリとして紹介された。開発のタイムラインとしては、2011年中にプロダクションシステムのベータ版を構築し、2012年初頭から一般の登録を開始するということであった。また、図書館サイドのワークフローを付け加え、自組織の研究者のパブリケーションを研究者のIDに結び付ける作業を80パーセント自動で、20パーセント手動で行うことを示した。3件目は、香港大学のDavid Palmerによる、The HKU Scholars Hubの紹介である。これは香港大学の研究者ディレクトリであり、研究業績として出版リスト、指導した学生のリスト、研究助成、ビブリオメトリクスが表示される。表示内容は細かく入力可能であり、表示設定できるようになっている。概してよく作りこまれている。特にビブリオメトリクスは外部サービスのIDをもとに引用している点が目を惹く。Scopus, BiomedExperts, PubMed, ResearcherID, Microsoft Academic Search, Google Scholarである。

Coffee break: everyone talk each other outside of the main hall

初日の最後は、ポスターレセプションである。ポスターレセプションでは、ポスター会場に用意されたワインやビールなどのお酒を片手に、興味のあるポスター展示の前でポスター発表者と気軽に議論できるようになっている。ポスターレセプションに先立って、ポスター1件当たり1分間の説明時間が割り当てられるMinutes Madnessと呼ばれる一大セッションがある。ここでは壇上に順番に発表者が並んで、総勢36人の説明が矢継ぎ早に繰り広げられる。興味のあるポスターをここで探すというわけである。筆者はここのポスター発表に採択されたので1分スピーチを行った。筆者は、Web上の日本の研究者の著者名典拠として研究者リゾルバー(Researcher Name Resolver)を開発しており、ポスターではこれを用いて、日本の機関リポジトリポータルであるJAIROにおいて正確な著者名検索を実現するフレームワークを紹介した。ポスター会場では、テーマが適時だったためか、多くの参加者とコミュニケーションをとることができた。写真は筆者のポスターを映し出している。

My poster presentation in the poster room

2日目の後半は、ディベロッパーチャレンジという、お題は1か月前に与えられるが、カンファレンス開催期間内にも特別に用意された部屋で最後まで開発して、参加者の前に披露するセッションがある。今回のお題は「未来のリポジトリを見せる」であった。写真はデモンストレーションの場面である。開発者コミュニティを育てる企画であり、発表後は会場にいる人たちの拍手でまるでテレビ番組のようにその時の点数が決められる。ただし、その後のレセプションで表彰される優勝者は必ずしも拍手の点数で決められたわけではなく、本質的に有用だと思われる機能を紹介したチームであった。審査員は実務的観点からアイディアを見ているのだろう。

A scene in the developer challenge

3日目の朝は、クロージングプレナリである。締めくくりにふさわしく、学術コミュニケーション技術のオピニオンリーダーであるCNI(Coalition for Networked Information)のClifford Lynchであった。彼は「Repositories: Major Progress and Open Questions」というタイトルでリポジトリの今を概観した。リポジトリに関するディスカッションはどこまで達成したか。まず一つは、一連のクリティカルディスカッションのフォーカスポイントを提供してきたことがあげられる。2つ目は、IRが様々な人たちを含んだコラボレーションのフォーカルポイントとなったことである。この2つは、学術コミュニケーションのランドスケープを変えるほどに達成したことであるという。

続けて、Lynchはまだ答えのない問題が残っていると指摘する。IRだけでなく出版全体の名前典拠の問題、IRメタデータ&発見サービスの問題。また、観察によると、IRとそれをとりまく学術システムの発展の仕方はばらばらであること。学習管理システム(LMS: Learning Management Systems)はいまどこにでもあるが、IRとの関係は不明。講義キャプチャシステム(Lecture Capture Systems)は、LMSより有用だが、どうしてキャプチャするのかという議論がなく、IRとの関係も不明。また、よくわからないのは、IRがワークフローに手をどこまで伸ばしていくか。大きくなったデータセットをどうするかも問題。最後に、バーチャル組織はIRを使うとして、組織が終了したらどうなるのかということ。また、長期的な責任問題として機関にどうマップするのか。他には、ソフトウェア。これは多くの関心を集積したものであり、データの再利用は難しい。それらを使った結果の出所がはっきりしない。そういうソフトウェアをリポジトリがどう扱うか。リタイヤした教員のリポジトリコンテンツ、大学を超えたIRの再解釈、などである。

最後は、オープンイッシューについて触れた。保存に関するアイディア。単一障害点を取り除く地理を考慮したコピー。異なる機関で重複したプリントを持つなどが考えられる。長期的保存について機関がコミットする意思があるかどうかを確認し、なければ別の機関へ手渡す必要もある。また、これからの話として増えていくコレクションをどうするか。機関と社会との関係の再考をしていく必要があるという。IRは単独では存在しえないからとうことだ。

Lynchのリポジトリを取り巻く考察を、聴衆は次の課題としてとらえられたに違いない。

Closing Plenary: Clifford Lynch (Coalition for Networked Information)

メインカンファレンスが終了すると、続けてDSpace、Fedora、EPrintsのユーザーグループミーティングが始まった。45件ほどの発表が複数の会場で2日間続く。

筆者はDSpaceを中心にして参加した。ここでの印象は、DSpaceはコミュニティを重視しているということである。コミュニティを盛り上げていくことが、DSpaceというシステムを継続して発展させていく原動力であるということだ。写真はSandy PayetteがDuraspaceの歴史を振り返る一コマである。彼女は近々学位を取るということで、あたかもDuraspaceの活動を卒業するかのような発言が見られた。

Sandy Payette in the Duraspace User Group Meeting

これでOR2011は終了する。しかし、順番は前後してしまうが、プレカンファレンスミーティングを付け加えてぜひ紹介したい。プレカンファレンスミーティングは、メインカンファレンスの前日に2日間にわたって行われた。リポジトリに関係のあるグループが普段Face to Faceで議論できないメンバーが集まって活動する場として企画される側面もある。リポジトリ関連企業が社内の活動や宣伝を兼ねてセミナーを開くものもある。

筆者はDSpaceの開発者ミーティングに参加したのでそれについて紹介する。実は、このDSpaceの開発者ミーティングこそがリポジトリ開発の真髄ではないかと思うような熱気がここにはあった。朝から夕方までほぼ一日、Lead DeveloperのTim Donohueの司会の下、30人ほどの参加者が日頃のネット上での議論を交わしている。多くの参加者は、普段DSpaceの運用マネージャでありアドバイザーで構成されるDCAT(DSpace Community Advisory Team)と、開発コミッターである。

ここでは、これからのDSpaceはどうあるべきかについて網羅的にブレインストーミングが行われた。実務の延長としての機能を全員で列挙していった。また、それとは別に、より具体的なことを決議していく。時期リリースとしてDSpace1.8.0の機能について担当者を明確にしながら確定し、また、バージョンナンバリングスキームについてディスカッションした。さらに、Google Summer of Code、Fedora Inside、 DSpace1.8.0のプランニングについて報告された。Google Summer of Codeの事例はDSpaceがプログラミング教育に使われていることが見て取れる。写真はミーティングの様子を示している。

DSpace developer meeting: hot discussion enthusiast together

その他にも、マイクロソフトリサーチの活動の紹介や、Fedora、Hydra、Curation TaskについてのBOFなど15コマほど用意されていた。

今回のOpen Repositoriesも昨年同様大変な熱気に包まれて、有意義な経験ができた。ここでは生きたリポジトリ開発、ひいてはWeb上の学術コミュニケーションシステム構築へのエネルギーが渦巻いている。年に一回の充電をここでするのはよいことだと思う。





おまけ。会場近くのテキサス州議会議事堂。そびえたっていました。

Texas State Capitol: standing on the ground

2011/05/16

KAKENのRDFを利用した共同研究者ネットワークの可視化

国立情報学研究所が提供する科学研究費補助金データベースKAKENは、科学研究費補助金の研究課題と研究者を検索できるシステムである。現行のシステムは2009年4月にリリースされ、以来、研究課題が開始される年度初めや9月の申請時期に多くの研究者に利用されている。広く一般に、どのような研究課題がありどのような成果があげられているのかを閲覧できるツールとなっている。

KAKENの収録範囲は、採択課題情報については1965年から、実績報告書と成果報告書概要については1985年から今日までである。2008年からは従来の紙の報告書からPDF版へと媒体を変えて、成果報告書が公開されている。自己評価報告書は新たに2008年から追加された中間報告書である。

KAKENに収録される情報は、採択課題情報を文部科学省から電子データのコピーの提供を受け、現在でも紙で提出される実績報告書、成果報告書概要についてはパンチ入力によって国立情報学研究所がデータ作成している。PDF版で提出される成果報告書と自己評価報告書についても、メタデータ抽出にあたってパンチ入力によってデータ作成している。

これらのデータは、クリーニング処理をへたのち、データベースへ投入される。少なくとも、データベースのキーとなる項目については完全なクリーニングが必要となっている。たとえば、研究課題番号や研究者番号である。データが作成されるまでに人間のかかわるところはすべてデータバグの可能性があり、研究者自身の報告書に記載される段階やパンチャーがパンチ入力する段階に起こる。あまりデータクリーニングをしてこなかった研究分担者の研究者番号を取り上げて調査したところ、10パーセント程度誤っていることが分かっている

クリーニングによってデータの整合性を極限まで高めることによって、はじめて信頼できるデータベースが構築できる。継続的に蓄積されるこれらの情報は資料的価値が高く、2次利用されることも期待されている。

Tim O’Reilly のいうGovernment 2.0では、政府はオープンプラットフォーム化しなければならないという(“government itself become an open platform that allows people inside and outside government to innovate”)。
政府がデータを一般に提供し、よいアイデアを持った者がWeb2.0の技術をベースにデータを利用し、よりイノベーティブで価値あるサービスを多く生むことが期待されるというものだ。政府のデータはオープンでしかるべきであり、オープンなイノベーションに寄与するべきというのである。この考え方に通じる政府のデータ提供サイトは、米国ではdata.gov であり、英国ではdata.gov.uk である。

国立情報学研究所のKAKENもこれらと同じくGoverment2.0のコンセプトと同様に、Web2.0の技術を利用することを前提に、オープンでかつスタンダードなデータ提供基盤であろうとしている。2010年6月から機械処理のためのAPIを備え、研究課題と研究者のURIを提供し、そのURIに対して成果情報データをRDF (Resource Description Framework)によって提供している。

KAKENのRDFを使うことによってたとえば、次のようなインターラクティブに動作する共同研究者のグラフをリアルタイムにブログ上に描くことができる。グラフの中心にいる研究者に対し、科研費の研究課題の共同研究者がリンクによってつながれている。中心以外の研究者名をクリックすると、その研究者に関連する科研費研究者番号およびKAKENの研究者ページへのリンク、キーワードが右側の白い枠に列挙される。また、グラフはクリックした研究者の共同研究者を追加して最適な配置で再描画される。次々と研究者名をクリックしていくことで、共同研究者のネットワークが明らかになる。また、右上の研究者番号のGOをクリックすれば、グラフはその研究者番号の研究者を中心として再描画される。研究者番号を書き換えて、新たな研究者に関するグラフを描きなおすこともできる。グラフ上に表示されるデータは、グラフ内のプログラムが筆者のラボ上に置かれたサーバープログラムを介してリアルタイムに取得している。グラフ内のプログラムはJavaScriptで記述されており、サーバープログラムへJSONパディングしたコールバク関数を呼び出して非同期通信している。サーバープログラムは、コールバック関数の呼び出しに応じて、KAKENからRDFフォーマットでデータを取得している。また、グラフ表示にはJavaScript InfoVis Toolkitを用いた。

(ここにインタラクティブに操作できるアプリがありましたが、重いのでコメントアウトしました。下の絵をクリックして、別ページでグラフを操作できます。)

操作は、背景をドラッグしてグラフを移動し、マウスのホイールを上下にスクロールするとグラフの拡大縮小になる。

筆者の共同研究者のグラフは少なくて操作はしやすいが、次に示すように国立情報学研究所の所長の例のように多数の共同研究者がいて大きなネットワークが構成されている場合もあろう。




ここに示したグラフはブログの掲載幅に合わせて小さいものを開発して例示している。より大きなグラフを操作するために、このリンクをたどった先で共同研究者のネットワークを探索してみてほしい。ここでは、グラフの中心は常にクリックした研究者となっている。下の例のように大きなグラフをブラウズできる。

2010/12/28

NPOとなったORCIDの参加者会議

 2010年9月7日にORCID (Open Researcher and Contributor ID)が米国デラウェア州のNPO法人に承認されたというプレスリリースが出され、ボードメンバーは10月8日に新たに組織内の役割を選挙によって決定した。参加者が集まる会議としては選挙後初めてであり、新しい顔ぶれによって進捗内容が報告された。ここでは、その会議の概要を紹介することにしよう。

 参加者会議は、2010年11月18日の9時から13時までタイトなスケジュールが組まれて、英国ロンドンにあるWellcome Trustの会議室で行われた。Wellcome Trustのオフィスはセキュリティが厳重であり、オフィス内に入るのも出るのも職員の許可が必要な場所であったが、透明なガラスを基調としたモダンな造りの建物は美術館を思わせるようなセンスの良さと高い吹き抜けが象徴するような風通しの良さが心地よいオフィスの雰囲気を作っていた。

 会議は、6階にある会議室で80名あまりの参加者とおそらく30名程度の電話会議参加者とが集まってスタートした。オープニングは、新たにボードメンバーのチェアとなったNature Publishing GroupのHoward Ratnerが行った。Howard Ratnerは、これまではテクニカルワーキンググループのチェアであったが、今回の選挙でORCID全体のチェアを務めることになった人物である。

 まず、Howard Ratnerから会議全体のオーバービューと組織のアップデートついて報告があった。続けて、エグゼクティブコミッティメンバーの一人ACMのBernard Rousから、新たに定義されたORCID Principlesの紹介があった。これにもとづいて今後の組織のかじ取りが行われる予定である。取り上げるべき事項としては次のものがあるであろう。研究者がORCIDに寄稿したり申告したりしたプロファイルデータは、すべての人がダウンロード可能であり、クリエイティブコモンズの定義した自らが著作権を主張しないという意味のCC0ライセンスとして権利放棄することが示された。さらに、ORCIDのシステムはオープンソースイニシアティブの認定するオープンソースとして公開する予定であることが示された。

 続けて、ビジネスワーキンググループのチェアの一人CrossRefのEd Pentzからは、持続可能な経営の在り方について報告がなされた。エグゼクティブコミッティメンバーの一人MITのMackenzie Smithからは、10月末に行ったサーベイの結果が報告された。ステークホルダーのORCIDに期待する最も関心の高い項目は著者名寄せであることが再確認された。アウトリーチワーキンググループチェアでHannover Medical SchoolのMartin Fennerからは、様々なメディアを用いてORCIDの公報の在り方について紹介があった。そして、さきほどのBernard Rousから、NIHとの交渉を進めていることの報告があった。NIHのPubMed Author IDとORCIDのIDを対応させるということである。NIHとの交渉はこれからであるが、NIHグラントの研究成果に付随する義務化という強制力とブランド力は今後のORCIDの活用に大きく影響することは否めない。続けて、OCLCのJenifer GatenbyからISNIについて紹介があった。ISNIはORCIDより扱う対象が広く、IDはCreatorにつけられる。ISNIとORCIDはID連携する予定である。テクニカルワーキンググループのチェアでThomson ReutersのBrian Wilsonからアップデートの報告があった。ワーキングの組織の構成について新たに紹介があった。

 会議の後半は、3人のステークホルダーからそれぞれのORCIDとのかかわりについて紹介があった。さきほどのMITのMacKenzie Smithからは研究大学の図書館からの視点、CERNのSalvatore MeleからはINSPIREという論文検索サービスを提供しているCERNの視点からORCIDとのかかわりについて発表があった。ワシントン大学のKristi HolmesからはNIHのプロジェクトとして進めている研究者ショーケースサービスVIVOについてWebExの電話会議経由で発表があった。

 NPO法人として組織化され新しい顔ぶれとなったORCIDで今後の展開が期待される。ここで触れた会議の内容はORCIDのメンバー組織となることでGoogleサイトからより多くの情報を取得することができる。無料でメンバー組織になることができるので、学術情報流通の新しい世界とサービスを築く重要な技術として著者IDに興味のある組織はぜひとも参加してはいかがだろうか。

ACMのBernard RousとNature Publishing GroupのHowar Ratner

会議の参加者

会場となったWellcome Trustの受付

2010/08/16

OR2010

 第5回International Conference on Open Repositoriesは、スペインはマドリードで2010年7月6日から9日まで4日間おこなわれた。オープンアクセスとリポジトリという2つのキーワードで、現実に利用される研究インフラとして必要なものは何かを議論し、実際に利用されている状況を報告するという実務ベースの会議である。会議は大きく分けて二つの構成になっている。これからの研究・教育環境としてのリポジトリに必要な用件について議論を行い先進的な実践を報告する前半、世界で最も利用されている2つのリポジトリE-PrintsDuraSpace (Fedora, DSpace)の開発に関連した報告を行う後半である。どちらも熱い思いが伝わってくる発表で埋め尽くされ、参加者は400人を超えていたのではないかと思われる。参加者の顔ぶれをみるとファンディングエイジェンシーのマネージャ、研究者、ライブラリアンが多勢であり、出版社は見受けられなかった。アカデミックサイドの活動であることが見て取れる。

 最初にスタートを切る基調講演は、英国サウサンプトン大学のDavid De Roure氏からmyExperimentの紹介であった。myExperimentは、ユーザー同士が研究・実験のワークフロー(Workflow)を共有し、Linked Dataの技術を活用して公開するプラットフォームである。リポジトリにおいて、研究に関連したワークフローを共有することが重要であることをグッドプラクティスとして示した。基調講演を受けて、リポジトリに必要な視点が網羅的に取り上げられる形で各セッションが展開される。研究データ、引用と書誌、管理者用システム、リポジトリプラットフォーム、リポジトリフレームワーク、相互運用ポリシー、データ統合と曖昧性解消、デジタル保存とアーカイブ、アカデミックワークフロー、国レベルのアプローチ、利用統計、持続性とビジネスオペレーション、リポジトリインフラストラクチャ、オープンアクセスポリシーである。筆者はデータ統合と曖昧性解消のセッションにおいて、Web上の研究者名典拠を実現する研究者リゾルバーについて発表を行った。そして3日目の朝、これらすべてを受けて、研究基盤にリポジトリを統合すると題したパネルディスカッションが行われた。これから十年先を見据えて実用的な研究基盤としてのリポジトリはどうあるべきかについて、DuraSpace開発マネージャのSandy Payette、天体観測データ環境整備を行てきたFrancoise Genova、リポジトリ運用連合COARを率いるNorbert Lossou、研究データキュレーションセンターCDLのマネージャStephen Abramsが、ローカルチェアの一人Wolfram Horstmanの司会のもと、率直な意見を述べあった。

 後半では、これらの総体としての著名な実装であるE-PrintsとDuraSpaceの開発に関連するテーマで報告が行われた。実装ベースの議論であるので、実際にコードを書き運用している経験をもとに具体的なモデルが議論されている。そして、ワークショップでは、利用されているプロトコルの理解やインストールしながらの動作確認、関連システムのデモンストレーションが行われた。

 会議全体に言えることは、Web上に展開されるオープンなリポジトリに対してこれから先の研究環境として重要な機能を見出し、それを実装してベストプラクティスを示すことが求められていることである。

 未来を見据えて研究教育環境づくりを志すDRFのメンバーは率先して参加すべき、世界をリードする先進のリポジトリにかかる議論と開発を行う一員となるための国際会議の一つではなかろうか。

この文章は月刊DRF7月号に寄稿したものと同じ内容です。
会場となったマドリードの街並み

2010/05/31

ORCID

 わが国では社会保険庁の年金記録問題の中に登場した「名寄せ」処理、これが学術論文の世界でもたびたび問題として取り上げられてきた。ある論文の著者と別の論文の著者は、同じ人物か別の人物か?ということを判別する問題である。

 閉じられたデータベースの中では、著者に英数字記号のIDをつけて区別し、名前のほかに生没年や職名などを付記して名前典拠を作成、管理することで、同姓同名の著者を区別してきた。日本の出版物や日本人の出版物を収集管理する国立国会図書館は、全国書誌として書誌メタデータを維持管理し、JAPAN/MARCフォーマットで書誌およびその著者のデータを提供している。このJAPAN/MARCの2008年7月5日づけの典拠ファイルを解析したところ、681,924人が登録されており、そのうち漢字圏の東洋人を抜粋すると572,638人が登録されていた。はたしてこれだけの著者で同姓同名の著者が存在する割合はいかほどか。漢字の姓名部分を文字列比較してみたところ73,138人に同姓同名人物が一人以上いる姓名であることが分かった。ざっと1割を超えている。トップは「鈴木博」さんと「田中実」さんで、ともに29人の同姓同名がいることが分かった。

 話を学術論文に戻そう。学術論文の世界ではこれまであまり厳密に著者管理をしてこなかったと思われる。学術論文の世界は図書の世界とは異なって、専門家のための専門家による閉じた世界であり、限られた読者には論文上の著者名と所属、および連絡先を提示するだけで著者区別が可能であり、実用上事足りていたに違いない。しかしながら、昨今の出版される論文数の劇的な増加や研究者の増加、研究論文の質の評価や、出版してきた研究論文の質の評価に基づく研究者本人の評価の重要性が以前にもまして取り上げられることになり、論文の著者を厳密に区別する必要性が高まってきている。にもかかわらず、学術論文では厳密に著者を区別することができないでいる。同一の著者の論文をクラスタリングの技術を用いて分類したり、第三者が目視で判定し分類してみたりしたとしても、実用上必要な99パーセントを超える100パーセントに近い精度を出すことは大変困難を極めている。

 そこで、厳密に著者を区別するために、著者にIDをつけようという動きが世界で起こり始めた。研究者が論文を投稿する段階から著者にIDをつけようというのである。このアプローチを前提に、論文出版者の世界でいま最もホットなのがORCIDである。ORCIDとは、Open Researcher and Contributor IDの頭文字をとったもので、研究者にIDをつける組織を意味し、研究者につけられるIDをも意味する。ORCIDは非営利でどの組織とも独立した団体を目指しており、Web上に出版される雑誌論文の著者すべてを対象として著者名典拠の役割をはたす。CrossRefがWeb上のデジタルオブジェクト、とくに雑誌論文に対してDOI (Digital Object Identifier)を付与、維持管理しているのに対して、ORCIDは研究者にIDを付与、管理する。

 ORCIDはこれからの組織であり、詳細についてあえてここではふれないが、どのようなことをやろうとしている組織なのかということは、タイムリーかつ内容の正確さゆえに絶賛を浴びているEric Hellmanのブログ記事を読むとよいであろう。組織としてORCIDに参加すれば、メンバーはこれまでの議論が蓄積されたWikiにアクセスすることができる。参加資格に原則制限はない。

 写真は、2010年4月29日(木)にORCID参加者ミーティングの会場となったThomson Reuters社@Boston。Boston Inner Harborに面する一角でThomson Placeと呼ばれる場所にある。

Thomson Reuters社入口

通りの向こうに、Boston Inner Harbor

2010/03/14

OAI-ORE

米国のCyberinfrastractureや英国のe-Scienceの流れの中で、科学技術論文の出版のあり方が変わりつつある。Tim-Berners LeeがCERN(欧州素粒子物理研究所)にて、研究のためのドキュメントや資料を容易にデスクトップ上に表示できるWebを考案してから20年もの歳月をかけてここまでのインフラが整いつつある。Web3.0と位置づけられるSemantic Webの世界がいま目の前に繰り広げられつつある段階である。Open Archives Initiativeが開発したORE(Object Reuse and Exchange)とは、本来的な学術知識の創生メカニズムを維持しながらこのSemantic Webの世界を前提とする、学術コミュニケーションの在り方の変革に必須なWebオントロジーである。

World Wide WebのArchitectureでは、すべての概念や事物はURI(Uniform Resource Identifier)で表現される。学術知識の例をあげれば、論文を構成するパラグラフや図、表までもがURIとして表現される。論文そのものにはHTMLテキストやPDF、PSなど様々なフォーマットが存在しうるが、それぞれのフォーマットに対応した論文単体もURIで表現される。論文の書誌事項が記述され、様々なフォーマットへのリンクが張られたHTMLページ、いわゆるスプラッシュページ(Splash Page)もURIの一つとして表現される。また、ジャーナルやカンファレンスプロシーディングスもURIとして表現される。表現の粒度は限定されることなく、概念に対してURIが対応付けられる。

OAI-OREはURIで表現された学術コミュニケーション上の概念に対して、最低限の関連性を規定する。リソースには、以下の4つの概念クラスが用意されている。
  • Aggregation (集合体)
  • AggragatedResources (被集合リソース)
  • ResourceMap (リソースマップ)
  • Proxy (プロキシ)
 URIで表現される概念すなわちリソースを集めて集合体(Aggragation)を形成すると考える。集合体に集められたリソースをとくに被集合リソース(Aggragated Resources)と呼ぶ。論文の書誌事項と関連ファイルのリンクを集めた、たとえばarXiv.orgのスプラッシュページを例にとると、スプラッシュページを集合体とし、実際の論文PDFやPS、OtherFormatsは被集合リソースと分類される。集合体と被集合リソースの関係は階層的であり、集合体が別の集合体の被集合リソースとなる場合も許容される。ここでのスプラッシュページは集合体である一方で、論文そのものはジャーナル誌のある巻・号に収録されるというコンテキストでは被集合体と呼ばれることとなる。集合体と被集合リソースの関係の記述自体もWeb上に存在する必要があって、関係の記述をリソースマップ(ResourceMap)と呼ぶ。リソースマップは後で説明するOREオントロジーの語彙を用いて記述していく。
また、知識の生成過程の中で、あるコンテキストの中に存在するリソースを引用したい時がある。コンテキストとリソースを同時に表現したものがプロキシ(Proxy)である。たとえば、ある論文中の図を引用したいときを考える。図はURIであらわされるが、引用としてはどの論文にあるかを明示しなければならない。図のURIは図の存在を示すために固有であるべきであって、ある論文に包含されていることを含めてはいけない。そのため、集合体としての論文に被集合リソースとしての図が含まれていることを示す概念をURIとして別に表現する必要があり、それがプロシキである。
これら4つの概念クラスに分類されたリソースに付随して用意された語彙は以下のとおりである。 接頭辞ore:は、http://www.openarchives.org/ore/terms/で示される名前空間を示す。
  • ore:aggregates (~を集める)
  • ore:isAggregatedBy (~に集められる)
  • ore:describes (~を記述する)
  • ore:isDescribedBy (~に記述される)
  • ore:similarTo (~に類似である)
  • ore:proxyFor (~のためのプロキシである)
  • ore:proxyIn (~にあるプロキシである)
  • ore:lineage (~をひとつ前とする)
これらの語彙はとりうる主語と目的語の概念クラスが規定されている。Webオントロジーの用語を用いれば、ドメインとレンジが規定されている。次のように主語、述語、目的語でトリプルを構成でき、それぞれの意味を示す。"URI-A ore:aggregates URI-AR"は、「集合体URI-Aは被集合リソースURI-ARを集める」を意味する。"URI-AR ore:isAggregatedBy URI-A"は、「被集合リソースURI-ARは集合体URI-Aに集められる」を意味し、ore:aggregatesと逆の関係にある。"URI-RM ore:describes URI-A"は、「リソースマップURI-RMは集合体URI-Aを記述する」を意味する。"URI-A ore:isDescribedBy URI-RM"は、「集合体URI-AはリソースマップURI-RMに記述される」を意味し、ore:describesと逆の関係にある。"URI-A ore:similarTo Any-URI"は、「集合体URI-AはリソースAny-URIに類似である」を意味する。ore:similarToの目的語は概念クラスを規定されず、どのようなリソースを対象としてもかまわない。たとえば、論文のDOI識別子を基底にしたinfo:doi:10.1108/07378830310479794などのinfo-URIを想定している。"URI-P ore:proxyFor URI-AR"は、「プロキシURI-Pは被集合リソースURI-ARのためのプロキシである」を意味する。"URI-P ore:proxyIn URI-A"は、「プロキシURI-Pは集合体URI-Aにあるプロキシである」を意味する。ore:proxyForとore:proxyInは同時に記述する必要がある。"URI-P-2 ore:lineage URI-P-1"は、「プロキシURI-P-2はプロキシURI-P-1をひとつ前とする」を意味する。ある論文における図の出現順をあらわすときに記述される。

集合体とリソースマップの関係はリソースマップに記述される。すなわちリソースマップから集合体へのリンクリレーションは存在している。集合体そのものはスプラッシュページとは異なり、概念として存在しているので、World Wide Webのアーキテクチャに従ってHTTPロケーションを指定する303リダイレクトによってリソースマップへのリレーションを確立する必要がある。リソースマップが複数のフォーマットで記述される場合はコンテントネゴシエーションによって最適なフォーマットのURIへ導く必要がある。ブラウザなどのHTTPエージェントは集合体のURIにアクセスするとリソースマップのURIへ転送される。
OAI-OREを用いた実装例として以下のものがあげられる。
Library of Congress Chronicling Americaは、米国LCがWeb上に提供する新聞記事提供サービスであり、複数のフォーマットの関係や記事タイトル、号の関係をOREによって記述している。Foresite ORE browser plug-inは、Firefox上のgreasemonkeyプラグインでありJSTORのサイトにアクセスすることでリソースマップが表示される。Zentityは、Microsoft Researchが提供するリポジトリプラットフォームでありOREを実装している。また、WordのOREプラグインも提供している。WordPress ORE Plug-inは、メジャーなブログプラットフォームであるWordPressのプラグインであり、投稿やページをリソースとして記述しリソースマップがAtom配信フォーマットとRDFで出力される。メジャーな機関リポジトリである、Fedora、DSpace、ePrintsに実装されている例も見受けられ、日本の機関リポジトリであるWEKOにも実装されている。


OAI-ORE開発責任者の一人Harvert Van de Sompelのプレゼンは、以下のYouTubeで。

2010/02/04

ISI, Citation Indexの草創期動画

 Thomson Reuters, Health & Science部門が提供するScience関連データベースの中核として,トップレベル学術雑誌のインパクトファクターとして知られるJournal Citation Reportがある.これは,Eugene Garfieldが1955年にScienceで発表したコンセプトCitation Indexes for Scienceが基になっている.50年以上の歳月をかけて現在のデータベースサービスを形成していることは尊敬に値する.

 1992年にThomsonに吸収される前のInstitute for Scientific Information (ISI)時代に作成されたCitation Index紹介ビデオがYouTubeに投稿されている.1960年代に新しいインデキシングの方法として提案され,図書館にあまたあるジャーナル誌から必要な論文を選択する画期的な方法であることがアニメーションで紹介されている.当時としては世界にそう多くはない大型計算機を利用してインデックスを作る様子は,他者にまねの出来ないプロのための情報検索ツールを提供し続けている熱い思いが伝わってくる.

 GarfieldのCitation IndexとVannevar BushのMemexは,現在のGoogleの成功を導いたPageRankに影響を与えたことでも知られている.

(#Garfieldご本人の投稿でした.)