2010/08/16

OR2010

 第5回International Conference on Open Repositoriesは、スペインはマドリードで2010年7月6日から9日まで4日間おこなわれた。オープンアクセスとリポジトリという2つのキーワードで、現実に利用される研究インフラとして必要なものは何かを議論し、実際に利用されている状況を報告するという実務ベースの会議である。会議は大きく分けて二つの構成になっている。これからの研究・教育環境としてのリポジトリに必要な用件について議論を行い先進的な実践を報告する前半、世界で最も利用されている2つのリポジトリE-PrintsDuraSpace (Fedora, DSpace)の開発に関連した報告を行う後半である。どちらも熱い思いが伝わってくる発表で埋め尽くされ、参加者は400人を超えていたのではないかと思われる。参加者の顔ぶれをみるとファンディングエイジェンシーのマネージャ、研究者、ライブラリアンが多勢であり、出版社は見受けられなかった。アカデミックサイドの活動であることが見て取れる。

 最初にスタートを切る基調講演は、英国サウサンプトン大学のDavid De Roure氏からmyExperimentの紹介であった。myExperimentは、ユーザー同士が研究・実験のワークフロー(Workflow)を共有し、Linked Dataの技術を活用して公開するプラットフォームである。リポジトリにおいて、研究に関連したワークフローを共有することが重要であることをグッドプラクティスとして示した。基調講演を受けて、リポジトリに必要な視点が網羅的に取り上げられる形で各セッションが展開される。研究データ、引用と書誌、管理者用システム、リポジトリプラットフォーム、リポジトリフレームワーク、相互運用ポリシー、データ統合と曖昧性解消、デジタル保存とアーカイブ、アカデミックワークフロー、国レベルのアプローチ、利用統計、持続性とビジネスオペレーション、リポジトリインフラストラクチャ、オープンアクセスポリシーである。筆者はデータ統合と曖昧性解消のセッションにおいて、Web上の研究者名典拠を実現する研究者リゾルバーについて発表を行った。そして3日目の朝、これらすべてを受けて、研究基盤にリポジトリを統合すると題したパネルディスカッションが行われた。これから十年先を見据えて実用的な研究基盤としてのリポジトリはどうあるべきかについて、DuraSpace開発マネージャのSandy Payette、天体観測データ環境整備を行てきたFrancoise Genova、リポジトリ運用連合COARを率いるNorbert Lossou、研究データキュレーションセンターCDLのマネージャStephen Abramsが、ローカルチェアの一人Wolfram Horstmanの司会のもと、率直な意見を述べあった。

 後半では、これらの総体としての著名な実装であるE-PrintsとDuraSpaceの開発に関連するテーマで報告が行われた。実装ベースの議論であるので、実際にコードを書き運用している経験をもとに具体的なモデルが議論されている。そして、ワークショップでは、利用されているプロトコルの理解やインストールしながらの動作確認、関連システムのデモンストレーションが行われた。

 会議全体に言えることは、Web上に展開されるオープンなリポジトリに対してこれから先の研究環境として重要な機能を見出し、それを実装してベストプラクティスを示すことが求められていることである。

 未来を見据えて研究教育環境づくりを志すDRFのメンバーは率先して参加すべき、世界をリードする先進のリポジトリにかかる議論と開発を行う一員となるための国際会議の一つではなかろうか。

この文章は月刊DRF7月号に寄稿したものと同じ内容です。
会場となったマドリードの街並み

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