2010/12/28

NPOとなったORCIDの参加者会議

 2010年9月7日にORCID (Open Researcher and Contributor ID)が米国デラウェア州のNPO法人に承認されたというプレスリリースが出され、ボードメンバーは10月8日に新たに組織内の役割を選挙によって決定した。参加者が集まる会議としては選挙後初めてであり、新しい顔ぶれによって進捗内容が報告された。ここでは、その会議の概要を紹介することにしよう。

 参加者会議は、2010年11月18日の9時から13時までタイトなスケジュールが組まれて、英国ロンドンにあるWellcome Trustの会議室で行われた。Wellcome Trustのオフィスはセキュリティが厳重であり、オフィス内に入るのも出るのも職員の許可が必要な場所であったが、透明なガラスを基調としたモダンな造りの建物は美術館を思わせるようなセンスの良さと高い吹き抜けが象徴するような風通しの良さが心地よいオフィスの雰囲気を作っていた。

 会議は、6階にある会議室で80名あまりの参加者とおそらく30名程度の電話会議参加者とが集まってスタートした。オープニングは、新たにボードメンバーのチェアとなったNature Publishing GroupのHoward Ratnerが行った。Howard Ratnerは、これまではテクニカルワーキンググループのチェアであったが、今回の選挙でORCID全体のチェアを務めることになった人物である。

 まず、Howard Ratnerから会議全体のオーバービューと組織のアップデートついて報告があった。続けて、エグゼクティブコミッティメンバーの一人ACMのBernard Rousから、新たに定義されたORCID Principlesの紹介があった。これにもとづいて今後の組織のかじ取りが行われる予定である。取り上げるべき事項としては次のものがあるであろう。研究者がORCIDに寄稿したり申告したりしたプロファイルデータは、すべての人がダウンロード可能であり、クリエイティブコモンズの定義した自らが著作権を主張しないという意味のCC0ライセンスとして権利放棄することが示された。さらに、ORCIDのシステムはオープンソースイニシアティブの認定するオープンソースとして公開する予定であることが示された。

 続けて、ビジネスワーキンググループのチェアの一人CrossRefのEd Pentzからは、持続可能な経営の在り方について報告がなされた。エグゼクティブコミッティメンバーの一人MITのMackenzie Smithからは、10月末に行ったサーベイの結果が報告された。ステークホルダーのORCIDに期待する最も関心の高い項目は著者名寄せであることが再確認された。アウトリーチワーキンググループチェアでHannover Medical SchoolのMartin Fennerからは、様々なメディアを用いてORCIDの公報の在り方について紹介があった。そして、さきほどのBernard Rousから、NIHとの交渉を進めていることの報告があった。NIHのPubMed Author IDとORCIDのIDを対応させるということである。NIHとの交渉はこれからであるが、NIHグラントの研究成果に付随する義務化という強制力とブランド力は今後のORCIDの活用に大きく影響することは否めない。続けて、OCLCのJenifer GatenbyからISNIについて紹介があった。ISNIはORCIDより扱う対象が広く、IDはCreatorにつけられる。ISNIとORCIDはID連携する予定である。テクニカルワーキンググループのチェアでThomson ReutersのBrian Wilsonからアップデートの報告があった。ワーキングの組織の構成について新たに紹介があった。

 会議の後半は、3人のステークホルダーからそれぞれのORCIDとのかかわりについて紹介があった。さきほどのMITのMacKenzie Smithからは研究大学の図書館からの視点、CERNのSalvatore MeleからはINSPIREという論文検索サービスを提供しているCERNの視点からORCIDとのかかわりについて発表があった。ワシントン大学のKristi HolmesからはNIHのプロジェクトとして進めている研究者ショーケースサービスVIVOについてWebExの電話会議経由で発表があった。

 NPO法人として組織化され新しい顔ぶれとなったORCIDで今後の展開が期待される。ここで触れた会議の内容はORCIDのメンバー組織となることでGoogleサイトからより多くの情報を取得することができる。無料でメンバー組織になることができるので、学術情報流通の新しい世界とサービスを築く重要な技術として著者IDに興味のある組織はぜひとも参加してはいかがだろうか。

ACMのBernard RousとNature Publishing GroupのHowar Ratner

会議の参加者

会場となったWellcome Trustの受付

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