2011/07/29

OAI7

オープンアクセスに関する国際会議の一つCERN Workshop on Innovations in Scholarly Communication (OAI7)は、スイスのジュネーブにおいてプレカンファレンスイベントも含めて6月21日から24日まで開催された。今回のOAI7は、オープンアクセスムーブメントを主導するSPARC Europeが主催し、これまでの会議は2001年のCERNから始まってここジュネーブにおいて隔年で開催され、今回は7回目ということである。ヨーロッパのオープンアクセス活動の英知がここOAI7に集結している。

会議のオープニングは、初日の午後から始まり、まず、SPARC EuropeのディレクタAstrid Van Wesenbeeckから、オープンアクセスムーブメントを進め、オープンアクセスに関する知識を交換する会議の趣旨が示され、それを受けた会議の構成について紹介があった。続けて、ジュネーブ大学のVice Directorで図書館にもかかわるAnik de Ribaupierreから祝辞が述べられ、あわせて最近研究大学コミュニティにおいてリサーチポリシーについて、とくにオープンアクセスの議論をしたエピソードを披露された。出版した論文をリポジトリに登録する活動には様々な困難が伴うが重要であるということであった。また、ジュネーブ大学は設立450年ということもあわせて紹介された。続けて、チェアの一人であるロンドン大学のPaul Ayrisから、264人の参加があったこと、オープンアクセスロードマップがロンドン大学のサーバーで公開されたこと、会議スポンサーの紹介があった。

OAI7 Poster

Welcome Speech from Paul Ayris

会議は基本的にはシングルトラックで構成され、オープニング前のチュートリアルとディスカッションセッションの2つだけマルチトラックでセッションが展開される。チュートリアルは初日の午前に開催され、基本的なことからこれからの技術まで幅広く用意されている。具体的には、書誌の重複検出を行うMarcXimiL、CERNのリポジトリシステムINVENIO、MementoとOpen Annotation、OJS(Online Journal Systems)、ハーベスタおよびサブジェクトリポジトリ、初心者用OAおよびOAI講座である。INVENIOはCERNが提供しているリポジトリソフトウェアであり、CERNのDocument ServerやHEP(高エネルギー物理)分野のリポジトリであるINSPIRE、そのほかいくつかの機関で使われている。Open AnnotationはWeb上にあるアノテーションを関連付ける技術である。MementoはWebアーカイビングにおける時間を考慮した新しい技術であり、時間軸によるナビゲーションを可能とする。

Harvester tutorial by Friedrich Summann

チュートリアル、オープニングの次は、プレナリーセッションである。最初のセッションの司会はMementoやOpen Annotationの開発者であるHervert van de Sompelが務め、Towards Machine Actionable Scholarly Communicationという魅力的なテーマであった。研究者が学術コミュニケーションをWeb上で行うこと、Semantic Webの技術を利用した世界で行うことを前提とした、機械駆動の世界を描いている。発表の一つの題目として挙げられたNanopublicationは新しいキーワードの一つであり、RDF (Resource Description Framework)のSubject-Predicate-Objectを構成するトリプルを知識として出版し、トリプル同士を連携させて再利用して知識として引用し論文を執筆する。別の発表では、Open Annotationの技術を取り入れたマニュスクリプトアノテーションツールが紹介されていた。

Harvard van de Sompel and a speaker those who are duscussing a question

Audiences listening to a talk

Many participants argue and duscuss about their ideas during a coffee break.

30分のコーヒーブレイクをはさんで、グラスゴー大学のWilliam Nixonの司会でAggregationと題したセッションが開始する。メタデータを収集してサービスするシステムの発表が続いた。その中でもUKのDiscoveryというサービスはリポジトリからメタデータを収集したのち、使いやすいように再配布することを目的としている。使いやすさの対象は、ユーザーだけでなくマシンをも対象としてその双方を含む。

初日の夜は、ソーシャルイベントとして、CERNのGlobe of Science and Innovationと呼ばれる会場でレセプションがおこなわれた。CERNの50周年記念として建てられた、ジュネーブにおけるサイエンスの象徴ということだ。ここにきて目につくのはLarge Hadron Collidar (LHC)という世界最大の加速器の紹介ポスターである。LHCの外周は27Kmということだ。世界にはいくつもの加速器が稼働しているらしいが、たとえば日本のSpring8の外周は1.436Kmである。けた違いに大きい。これによって宇宙の原理を解明するという。

CERN Globe

Participants in the reception hall

レセプションでは、CERNに関係するローカルチェアのあいさつからはじまり、どこかでみたような液体窒素をつかった超伝導の実験もおこなわれ、会場はリラックスした雰囲気の中にも活気に満ちていた。そして、忘れてはならないのは、CERNの研究棟の見学のなかで、とある一角に「Web発祥の地」と書かれた看板があった。見学ツアーでは我々にもっとも関係のある場所だ。OAIではあたりまえに使っている技術の根源はここCERNにあったことを強く感じさせられる。なぜかここに来る直前に案内をしてくれた研究所の副所長から参加者全員は「Tim Berners-Lee」を連呼させられた。いい思い出ではある。

The panel of "Where the Web was Born" in a corridor of CERN research building

Visitors took a snapshot of "Where the Web was Born"

2日目の朝はAdvocacyのセッションから始まった。SPARC Europeの前ディレクターであるDavid Prossorの司会であった。本セッションで予定されていた最後のパネルディスカッションを中止して、Alma SwanがOpen Access Mapのベータ版が公開されたことを報告する。オープンアクセスに関するサイトのリストが一か所にあったほうがいいという。リポジトリだけでなく、ジャーナルサイト、ポリシー表明サイト、そのほかOAに関するものならなんでもありだ。フォームから自由に登録申請をすることができ、レビューを通過すると世界地図に反映される。

Surprisingly, Alma Swan introduced Open Access Map

続けて、アドボカシーについて、まず、南アフリカのUniversity of Pretoriaの例、UKのグラスゴー大学の例が紹介された。グラスゴー大学では、リポジトリとCRIS(Current Research Information System)が統合されたシステムがあり、とくにCRISは学内システムの中心に位置している。People, Processes, Policiesが大事だということだ。また、続けて米国SPARCディレクタのHeather Josephによるホワイトハウスへのロビイングに関する報告があった。

SPARC Director, Heather Joseph gives a talk of OA advocacy

2日目の午前は、コーヒーブレイクも兼ねたポスターセッションが行われた。筆者は、このポスターセッションで日本のリポジトリのハーベスタであるJAIROの著者検索フレームワークについて紹介した。筆者の発表内容の本質は以下のユースケースで説明できる。リポジトリのメタデータのクリエイターフィールドにID属性を付加し、ここに著者を表すURIを挿入する。JAIROはこのメタデータをハーベストし、研究者リゾルバーに統一的な研究者リゾルバーのIDへの変換問い合わせし、JAIROはこのIDを基礎に著者検索機能を提供する。この研究者リゾルバーIDもURIとしてあらわすことができる。一方で、研究者リゾルバーはリポジトリのIDと研究者リゾルバーのIDとのマッピングテーブルをあらかじめ構築しておく。マッピングテーブルを構成する一つの方法は、機関がアップロードする研究者プロファイルに基づく。ハーベスターレベルのIDによる著者検索はまだ世界でも不十分であり、JISCの職員やMicrosoft Researchのエンジニアなど幾人かの参加者からJAIROの著者検索を実現するフレームワークに対して興味深く質問された。

Conference Venue, the University of Geneva, Uni Mail Building

My poster hanging on the wall of Uni Mail Building

さらに、午後は、オープンアクセス出版について報告があった。SOAP (Study of Open Access Publishing)プロジェクトの報告、PEER (Publishing and the Ecology of European Research)プロジェクトの報告、いずれも、OA出版に関する現状分析とOA出版の特徴について分析結果をまとめている。続けて、Mark PattersonによるPLoS (Public Library of Science)の紹介である。PLoSは、成功したオープンアクセス出版者の一つである。MarkはPLoSプラットフォームの機能を紹介していた。彼の発表の中で興味深かった視点は、今後の学術出版におけるコミュニケーションとして、ある記事がOA出版された後、様々なデータやブログ記事で”Post-publication content enhancement”する2段階になるといっているところであった。

その後続けて、6つのトラックに分かれるディスカッションのセッションが開始された。それぞれのトラックのテーマは、次世代OAI-PMH、OA出版、リサーチデータ、アグリゲーティングサービス、アドボカシー、オープンサイエンスであった。筆者は、次世代OAI-PMHのセッションに参加したが、これはOAI-PMHを作ったHarvard van de Sompelが出席するからであった。彼がディスカッションの最中、プロトコルを作る際にもう一度学術コミュニケーションを考え直してみればいいと述べていたのは印象的であった。

3日目の朝一番はオープンサイエンスというセッションであった。これは、サイエンス自体が開かれたものであるという主張である。Citizen Cyberscienceがこれからくるという発表があった。***@HOMEという個人が自宅のコンピュータを貸して、科学的な計算をしようというようなものだが、これがたくさんのプロジェクトとして浮上しているということだ。次に、無料のレファレンス管理ツールとしては成功したMendeleyの紹介があった。SNSの機能と融合しているところが特徴である。PLoSのAPIとMendeleyのAPIを合わせてアプリケーションを作るコンテストの紹介もあった。

a snapshot after Mendeley co-founder, Victor Henning gave a presentation about his businness

最後のセッションは、Research Dataであった。Anja Jentzsch からLinked Dataについて活動の紹介があった。彼女は、CKANというData HubのLOD Cloud Data Catalogをつくっている作者である。続けて、最後の発表は、マックスプランク所属のPeter Wittenburgからリサーチデータに関するヨーロッパにおけるビジョン作成するグループ(High Level Expert Group)の成果報告であった。

最後に、クロージングスピーチとなり、SPARC EuropeのディレクタのAstrid van Wesenbeeckと、ロンドン大学のPaul Ayrisからまとめの言葉で締めくくられた。次は2年後に会いましょうということであった。

OAI7という会議に初めて出席したが、招待講演のみによる内容の濃い発表で埋め尽くされていた印象があった。基礎的技術を作った著名人とそれをとりまく熱意ある人々、これからも続くであろう現実的で実務に根差した議論とその実践がこの場所に集まってくる。ヨーロッパを中心として世界中から、オープンアクセスとウェブという2つのキーワードが融合するところ、これから訪れる学術コミュニケーションの在り方を模索しようと、アカデミアを志向する人々が集まって、それぞれが実践者としての次の一歩を確かめようとしていた。



【追記】
本文では触れなかったが、OAI7に併設されていくつかのミーティングが催された。これらも大変内容の濃いものであったので、軽く紹介しよう。

プレカンファレンスイベントは本会議の前日に開催され、リポジトリソフトウェアであるDSpaceとIslandoraのユーザーグループミーティングが開かれた。DSpaceのユーザーグループミーティングはベルギーに本社のある@mireというカスタマイズおよび運用を支援するソフトウェア企業が主催した。朝から夕方まで一日行われ、リポジトリ関連の講演とDSpaceの新しい機能紹介があった。@mireはDSpaceのコミッターの中でも目立っている企業である。

a scene during the DSpace user group meeting presented by @mire

また、OAI7の昼休みの時間を使って、COAR(Confederation for Open Access Repository)のBOF(Birds of a Feather)が1時間ほど行われた。3つあるワーキンググループの報告があり、どちらかというと顔合わせに近い感じの会だった。

BOF (Birds of a Fether) of COAR where the officer, Birgit Schmidt chaired

そして、これが最も熱い内容の併設イベントであったが、SITS(The Scholarly Infrastructure Technical Summit)ミーティングというのがあった。OAI7のクロージングが終了して、配られたランチバッグを持ち寄って、ミーティングが始まる。招待制のJISC主催の会議で午後と次の日の午前中の合計2回集まった。集まったメンバーは、Duraspaceのスタッフや、EPrintsの開発者、Microsoft Researchのエンジニア、アメリカやイギリスのシステムズライブラリアンなど、システムエンジニアの面々が集まっている。これはとりわけテクニカルなインフラについてブレインストーミングをする会議で、議論する内容と優先順位をその場で決めていく。もちろんテーマとしては、OAI7においてとりあげられたホットトピックである。この時の最初のトピックはResearcher Identificationであり、筆者がポスターで発表したテーマと同じであった。そのときの議事録はこちら

SITS meeting started

the second day in the morning of SITS meeting in a cafe. well-known Les Carr took in the left side

英国、米国、オーストラリアのネイティブ3か国+日本、容赦ない英語の議論でした。(楽しかった~。:-))

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